イルカだった少女


妃乃(ひの)は泳ぐのが得意な女の子でした。
最初に出会ったのは小学校5、6年のクラスで、
そのときはあまり親しくなかったけど、
次に出会った中学2年生のとき、とても仲良しになりました。

夏の体育(プール)の時間、先生がなぜか得意げに(笑)
消毒用のタブレットをプールのあちこちに投げるんだけど、
妃乃はすばやく水の中に潜って、
底に落ちてるタブレットを拾うのです。

先生に「○○(妃乃の名字)、
手が荒れるぞ〜!」って言われて、
妃乃はわたしを見てニコッとして、
拾ったタブレットをまた
プールの中にポイッと投げ捨てます。

ホントに潜るのが得意で、胸とお腹がプールの底についてるんです。
わたしは潜れなくて、すぐ浮かんでしまいます(笑)。
妃乃は水の中の回転(前転?)もすごい速さでクルクルできます。
それと水面に仰向けに浮かぶのも上手で、
「深いところに落ちても、こうしてれば溺れないんだよ。
去年、海に行ったとき深いところに入っちゃって、
それであたし、『おとうさん、助けて〜』って言ったら、
おとうさん助けに来てくれた(笑)」って無邪気に笑ってました。

妃乃の好きなSくんは、お父さんが水族館の職員で、
Sくんはよくその水族館に遊びに行ってたらしいです。
妃乃がなぜそのことを知ってたのか、わたしは知りませんでした。
ただその水族館からメスのイルカが一頭いなくなったことは、
テレビのニュースを見て知っていました。

その後、妃乃とわたしは別々の高校に行くようになって、
次に再会したのは、大学生になってからでした。
妃乃とわたしは何と同じ大学の学生でした(学部は別々)。

でもそのときの妃乃は中学生のときとは全く違う雰囲気で、
笑顔も少なくて、「わたしアニメーターになりたいの」って
思い詰めるように言っていました。
部屋の中にはアニメーションの原画が
いっぱい置いてありました。
男の子のイラストと女の子のイラスト、
そしてイルカ、海の中の風景など。

その後、彼女とは一度も会わないまま、
わたしも夢だった少女漫画家にはなれず、
そのまま普通の会社(東京)に就職しました。

そして何年かたったある日、中学の同窓会のお知らせが届きました。
同窓会名簿も同封されていました。その名簿を何気なく見ていて、
他の人はみんな所属や連絡先が書いてあるのに、
妃乃のところには「○○妃乃 死亡」と書いてありました。
わたしはすぐに彼女は自分で命を絶ったんだって直感しました。

中学生のときはあんなに明るかった彼女に、
高校時代に何があったのかわかりません。
でも水族館から行方不明になったイルカは、
どうしても妃乃のような気がするのです。
妃乃は好きだったSくんとどうなったんだろう。
大学時代にたった一度きり会えたあのとき、
もう少し話を聞いてあげればよかった。

でもあのころのわたしは自分を支えるのに精一杯で、
あの一年半後には精神病院の閉鎖病棟に入ってしまったから、
わたしも妃乃と同じような精神状態だったと思うの。
でもイエスさまはこんなわたしに出会ってくださいました。
そしていつも心に住み着いていた孤独感と虚無感、
失踪願望と自殺願望を完全に消し去ってくださいました。

いつもイエスさまがいてくださる安心感と喜び。
今とても幸せだよ。何があっても怖くない。
わたしではなくイエスさまだけをあてにして歩む人生。

妃乃もイエスさまのところに連れて行ってあげたかった。
力になってあげられなくてごめんね、妃乃。

水着姿の妃乃

あなたは私のために 嘆きを踊りに変えてくださいました。
私の荒布を解き 喜びをまとわせてくださいました。
私のたましいが あなたをほめ歌い 押し黙ることがないために。
私の神 主よ 私はとこしえまでも あなたに感謝します。
(詩篇 30篇11-12節)
(@新改訳2017)


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