肘が触れる


家庭科の時間、隣合わせだったMくんとときどき肘が触れました。
私はMくんが好きで、Mくんが動いて肘が触れるたびに胸がキュンキュンしてました。
Mくんがよそ見してるすきに、椅子に掛け直すふりをして、
椅子を少しずつMくんのほうに近づけて、ドキドキしていました。

だから私は家庭科の時間が大好きでした。
たぶん成績もよかったと思います。
裁縫箱を入れる小さな手提げバッグを作ったとき、
Mくんに何か教えてあげたような気がします。

裁縫箱の色は女子はピンクで、
男子はたしかグリーンでした。

授業中、Mくんと男子数人がこそこそふざけてたとき、
先生(女性)がそれを見つけて、Mくんの名前を代表で呼んで、
「○○くん!」っていったん怒ったんだけど、そのすぐあと、
「あんた、かわいいなー」って言ったのです。
みんな爆笑したんだけど、私はそれがかなりいやでした。
その後、その先生は何かあるたびに、Mくんに、
「○○くん、あんたかわいいなー」って言うのです。
私は子ども心に「やな感じ」と思いました。

Mくんはたしかにルックスは「かわいい系」なんだけど、
ふだんの行動とか見てると、男の子らしくてかっこいいのです。
私は先生のことがキライになりそうでした。
先生をライバル視してたわけじゃないと思うけど、
嫌悪感を持っていたことは確かです。

短い休み時間は女子はゴム飛びしたり、
お昼休みは担任の先生(男性)も入って
みんなで円になってバレーボール(地面にボールを
落とさないようにレシーブやトスが何回続くか)
をしたりしてました。

Mくんは男子数人と運動場の隅から隅まで駆け回って、
ドッジボールをしてたのを覚えています。
大声出したり、笑ったり、怒ったような真剣な顔で、
ボールを投げ合っては、胸で受け止めていました。

私はバレーボールをトスしたあと、
ちらっとMくんのほうを見てました。

中学生になったとき、Mくんはもう同じ中学にはいませんでした。
Mくんを探したかどうかも、Mくんがいないことにいつ気づいたのかも、
私はまったく覚えてないのです。

告白なんて思いもしなかった。
だから友達に相談した記憶もありません。
たぶんこれが私の初恋。


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