2010年5月24日(月)


希和子語録

八日目の蝉」の希和子のセリフで印象に残ったものも書き留めてみました。2番目以外は、希和子の心の声(ナレーション)です。→ 「文治さん語録

この島で生まれて、文治さんのような人と結婚して、幸せに暮らす。そういう一生もあったのかもしれません。でも、いくら幸せでも、その道を選んでいたら、薫、あなたには出会えなかった。あなたのいる道といない道、2つの道、どちらかを選べと言われたら、お母さんはためらいなく、あなたのいる道を選ぶでしょう。たとえその道が行き止まりでも。帰ってこられなくなる道だとしても。

「薫、何もってるの?」「蝉さんが死んでるの」「死んでるんじゃないよ。これはね、蝉さんの抜け殻」「抜け殻?」「蝉さんは生きてるんだよ。このどっかで」「ねぇ、蝉ってすぐに死んでしまうの?」「ん?」「土の中に何年も何年もおって、出てきたらすぐ死んでしまうって。けんちゃんが言うとった」「そんなことないよ。七日間は生きるんだよ」「へぇ?七日しか生きられんの?」「蝉にとったら、ちっとも短くないんだよ。だって人間の一生分だもん。毎朝、毎朝、ああ、神さま、きょうを迎えられてありがとうございますって、蝉は思うんだろうね。一日一日がとっても幸せで、胸が痛くなるくらいで。夜眠るのがもったいないくらいで。中にはちょっとだけ長く、八日くらい生きる蝉もいるかもね」「そんなのいやや」「どうして?」「だってほかの蝉はみんな死んでしまうのやろ?自分だけ一日生き残るなんて、さみしくてたまらん」「そうかぁ。・・そうかなぁ?」「ねぇ、これ、薫の宝物にする。蝉さんがさみしいないように、薫がずっといっしょにいてあげるんや」

薫、あなたの幸せがいつまでも続きますように。あなたの目の前から私が消えて、このかけがえのない時間の記憶が薄れたあとも、ずっとずっとあなたが幸せでありますように。

薫、知ってる?八日目まで生きた蝉は孤独だけれど、ほかの蝉が見られなかった美しい景色を見ることができるんだよ。誰にも愛されず、必要とされず、生きている意味なんてなくしたはずなのに、仕事の合い間、この海に臨んで、夕日に包まれたあの島を見つめると、お母さんはあたたかなもので胸がいっぱいになるのです。あそこには天国がある、光の国がある、あなたと過ごした幸せな日々がある。その幸せが、あの日幼いあなたを抱き上げたときのずっしりとした重さが、この手の中によみがえってくるのです。

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